私たちは、皆様から頂いた著名をネット社会の健全な発展のために役立てます。
検索サービスは、ネット社会の基幹的インフラとなっており、個人情報や位置情報と組み合わせることにより、
ますます高度化しつつある。その将来は、わが国の経済の根幹に影響するだけではなく、
文化的な多様性や言論の質をも左右する。
しかし、検索サービスは、いったん独占が生み出されると、元に戻すことは困難である。
2010年7月に発表された上位二事業者の提携についても、このような観点から、
オープンな国民的議論が必要である。 (
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園部逸夫 (元最高裁判所判事・弁護士)
御厨貴 (東京大学教授)
安念潤司 (中央大学法科大学院教授)
玉井 克哉 (東京大学教授)
ウェブ検索とネット社会の将来に関する国民的議論を
インターネットは、情報を共有し、議論を進め、考えを深める上で、不可欠な道具になっている。
それは、メディアの垣根を取り払い、コンテンツ産業の基盤になっているだけでなく、さまざまな経済活動の基盤でもある。
インターネットは、産業革命に匹敵する変革を社会にもたらしつつある。
基幹的インフラとしての検索サービス
こうしたインターネットの役割を大きくしているのが、検索サービスである。
インターネット上を行き交う情報は、多様かつ大量である。
そこには、根拠のあるものやないもの、個人的なものや公的なもの、公開のものや秘密のものが、雑多に含まれている。
ネット上を行き交う情報が大量かつ多様になればなるほど、「いま・ここで」必要とされる情報を捕捉することが重要になる。
それを可能にする検索サービスは、情報の洪水で溺れないための、不可欠な手段である。
人類の長い歴史を振り返れば、情報は主として紙の書物に蓄えられてきた。
しかし、特に若い世代を中心に、検索によって捕捉される電子的な情報が、どんどんその比重を高めつつある。
地理的なデータは既に電子化され、スクリーンの表示が紙の地図に置き換わりつつある。
音楽はもちろん、映像もまた、ネットを検索して欲しいものを見つけ出し、楽しむものになりつつある。
今後、もし紙の書物がすべて電子化されれば、われわれの知的活動は決定的にネットの検索に依存するようになるであろう。
知識の創出が何よりも重要な現代経済においては、それは、経済活動の基幹的なインフラとなることを意味している。
検索サービスの高度化と集積の利益
ごく近い将来に予定されているのは、位置情報や個人情報と組み合わせて、検索サービスを高度化することである。
たとえば、同じ「中華料理」をキーワードにしていても、休日に自宅で検索するのと平日の5時に会社で検索するのとでは、
求められる結果はまったく違う。辛いものが苦手な人は、四川料理の店より広東料理の店を優先的に表示してほしい。
デザインに興味のある人は、著名なイタリア人デザイナーがプロデュースした店に行きたいかもしれない。
そうした、自分のいる場所や個人的な趣味・嗜好と連動した検索結果を瞬時に得ることができれば、
検索サービスの利便性は大いに増すことだろう。
また、パソコンや携帯電話の画面に文字を打ち込むことだけが検索ではない。
ボタンを押して「銀行」と叫べば、最も近いATM(現金自動預払機)の場所を携帯電話が示してくれ、
営業時間や休日の手数料も教えてくれる。そんなサービスは、ごく近い将来に実現するだろう。
何年か後には、持ち合わせが乏しくなったときに教えてくれるサービス、
自家用車のガソリンが切れそうなときに教えてくれるサービス、
次の週末に紅葉を楽しめる行楽地を教えてくれるサービス――それも渋滞につかまらずに――等々も、
登場するだろう。打球の飛びそうな場所にイチローが予め守備位置を変えるように、
われわれの願望を予想するのが、検索サービスの将来像である。
そうした高度なサービスは、単に検索エンジンを技術的に高度化するだけでは実現できない。
われわれ個々人の情報を蓄積し、整理することが必要なのであり、現にそれは急速に進んでいる。
多くが満足する検索結果を表示するには膨大な情報が必要であり、他者に先行する者が絶対的に有利である。
21世紀の初期に優位を築いた者は、遠い将来にわたってその優位を保つ可能性が強い。
ネットワーク社会の基幹的インフラである検索サービスは、経済学の言葉でいえば、自然独占の傾向を持つわけである。
国民的な議論が必要である
このように、検索サービスはネットワーク社会の基幹的インフラである。
そのため、中国や韓国は、その独占を防止する強力な措置を国策としてとっている。
アメリカでも 2008年、第一位と第二位の事業者が発表した提携計画に合衆国政府が介入し、
独占禁止法(反トラスト法)をテコにそれを阻止した。
他方、わが国では、第一位と第二位の事業者がそれぞれ4割強のシェアを占めるという好ましい競争環境が維持されてきた。
その結果、日本語での検索サービスではイノベーションが促進され、短期間で大いなる発達を遂げた。
しかし、去る7月、上位の二事業者が提携する計画を発表した。
その詳細は明らかになっていないが、このままでは、ウェブ検索において90%超ものシェアが、
単独の事業者に握られることとなりかねない。世界で最も独占的な状況にもなりかねないのである。
われわれは、こうした状況に対して、国民各層でのオープンな議論が必要だと考える。
検索サービスが直接的に影響を与える産業は、いまのところ、検索連動型広告など、一部に限られている。
しかし、ネットワーク社会では、検索にかかわらない情報は存在しないに等しい。
検索サービスの提供する結果が、われわれの思考そのものを規定するかもしれない。
さらには、われわれが知らない間に、オーウェルの「1984年」の世界が実現する可能性すらある。
検索サービスについて将来にわたり競争的な環境を維持できるかどうかは、わが国の経済の根幹に影響するだけでなく、
文化的な多様性や言論の質をも左右すると言っても、おおげさでない。
この問題について、オープンな議論と慎重な考慮が必要だと考えるゆえんである。
事務局 NPO法人 知的財産研究推進機構